コロナ禍に苦しむ国民へ「天皇陛下からのメッセージ」…に潜む懸念



文/宮本タケロウ

コロナ禍にさいなむ国民へのメッセージ

読者の皆様のなかには既にご存知の方もいるかもしれませんが、先月28日に宮内庁ホームページに「新型コロナウイルスに関する天皇陛下のご発言」が掲載されました。

これは、4月10日に政府の新型コロナウイルス対策専門家会議の尾身副座長から天皇陛下に御進講があった際に、今上陛下が尾身副座長への挨拶として発せられた言葉であり、国民へのメッセージとして出されたものではありませんが、事実上のコロナ禍が続く国民への励ましのメッセージとして専門家の間では認識されています。

4月28日に宮内庁ホームページに公開された「ご発言」は以下のようなものでした。

 今日はお忙しいところ時間をとっていただきありがとうございます。尾身さんが,新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の副座長として,新型コロナウイルス対策に大変尽力されていることに深く敬意と感謝の意を表します。また,これまで,日夜,現場で医療などに携わってこられている多くの関係者のご努力を深く多としています。

 現在,世界各地で新型コロナウイルスが猛威をふるっています。我が国でも,人々の努力と協力により,爆発的な感染がなんとか抑えられてきましたが,このところ東京などを中心に感染拡大の速度が速まってきていることなど事態の深刻化が懸念されております。医療提供体制のひっ迫が現れ始めていると聞き,先日は,政府による緊急事態宣言も出されました。

 この度の感染症の拡大は,人類にとって大きな試練であり,我が国でも数多くの命が危険にさらされたり,多くの人々が様々な困難に直面したりしていることを深く案じています。今後,私たち皆がなお一層心を一つにして力を合わせながら,この感染症を抑え込み,現在の難しい状況を乗り越えていくことを心から願っています

宮内庁ホームページ令和2年4月10日(金)

内容自体は国民をいたわる素晴らしい文章であり、宮内庁ホームページを頻繁に閲覧する皇室ファンや皇室の専門家の間では、「天皇陛下が国民を想ってくださる気持ちがよくわかった」と、非常に好印象をもって受け取られました。



天皇陛下メッセージに潜む懸念とは…

しかし、一方で懸念もあります。それは「なぜ公式にお言葉をお述べにならないのか」という疑問です。

上記に引用した「新型コロナウイルスに関する天皇陛下のご発言」はあくまで4月10日に行われた御進講の際に尾身副座長に向かって語られた発言であり、しかもこれが宮内庁ホームページに公開されたのはそれから2週間以上たった4月28日でした。

さらに言うと、4月10日に宮内記者会には「ご発言」の内容が知らされましたが、ただ発言要旨の紙が記者会の部屋に貼られただけで他に何の説明もなく、28日に宮内庁ホームページに公開されるにあたってもなんの前触れもなく、突然ホームページに掲載されただけでした。

こうした経緯により、一般国民にこの「ご発言」は全く周知されておらず、たまたま宮内庁のホームページをたまたまネットサーフィンしていない限りは見つることが不可能なシロモノになってしまっているのが現状です。

端的に言えば、せっかくの天皇陛下からの国民へのメッセージにも関わらず、全く国民に届けられていない状況であり、ご発言の主旨とその広報がアンバランス極まりないように思えます。

皇室の専門家の間で湧く懸念…

「せっかくコロナ禍にさいなむ国民に向けたご発言なのに、宮内庁はどうしてしっかり伝えないのか…」

私と同じような疑問はすでに皇室の専門家からも立ち現れています。

5月1日、Twitter上で、象徴天皇制の専門家、河西秀哉氏(名古屋大学准教授)と『エリザベス女王 史上最長・最強のイギリス君主』(中公新書)などの研究で知られる立憲君主制の専門家、君塚直隆氏(関東学院大学教授)、そして『大正天皇』などの著作で知られる政治学者の原武史氏(放送大学教授)という近現代皇室制度のそうそうたる専門家の間で以下のようなやりとりがありました。

やりとりは河西秀哉氏の以下の疑問から始まります。

河西秀哉氏4月10日に行われた尾身茂新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長の「ご進講」における『新型コロナウイルスに関する天皇陛下のご発言要旨』が4月28日に宮内庁HPで発表されましたが、これが事実上のメッセージなのでしょうか。」(河西氏5月1日Twitter)

これについて君塚直隆氏と原武史氏がこうリプライしました。

君塚直隆氏「でももっとはっきり仰ってもいいように思えますよね。」

原武史氏「なるほど、そういう見方もできなくてはありませんが、やはりビデオメッセージとはインパクトの度合いが違いますね。今朝のNHKで、御厨さんがしかるべき時機にメッセージを出すべきだと発言していたのが印象的でした。」

君塚氏の発言「もっとはっきり仰ってもいいように思えます」に対する河西氏の返答はこうでした。

河西氏「先生おっしゃるとおりです。もっと強く打ち出してもいいかなと思うのですが、あまり政府とかそれを批判する人々を刺激してもいけない、という意識なのかな、、、とも感じます。」



象徴天皇制専門家の疑問点

いかがでしょうか?

象徴天皇制を研究する専門家の間でも、天皇陛下の「ご発言」の”目立たなさ”に疑問が呈されているのがおわかりいただけると思います。

河西氏が「政府を批判する人を刺激してはいけない」と述べるとおり、批判の多い政府のコロナ対策を擁護するようなメッセージになってはいけないのはもちろんですが、「ご発言」が宮内庁ホームページにしれっと掲載されるだけ…という「国民へのメッセージ」にしては非常に中途半端な形になっているのは非常に不可解です。

最後に、河西氏は原武史氏のコメントに対してこのように返事をしました。

河西氏原さんのご指摘のとおりだと思います。ビデオメッセージとはインパクトの度合いが違う(今回の宮内庁のHPもかなり遅く、目立たないので気がつかない)と思います。御厨さんもそう発言されていたのですね。やはりいずれ出てくるかもしれませんね。

河西氏が「いずれ出てくるかもしれませんね」と述べてから早2週間超。コロナ禍は徐々に終息に向かいつつありますが、天皇陛下のお言葉はまだ出ていません…



「お言葉」が出なくとも、いてくださるだけでありがたい

私としては、おそらく今回のコロナウイルス禍に際して、陛下の特別なお言葉は出ないものと推測しています。

国難に際して、天皇陛下のお言葉が出ない…

これが、宮内庁内でどのような力学が働き、両陛下がどのようなご判断をされた結果なのかを知る由は、今のところありません。

もしかしたら、「自粛と補償はセットだろ」という政権批判の声を考慮して、どうしても「頑張りましょう」や「国民の皆さまとご一緒に力を合わせ」という(政権擁護的な)内容にならざるを得ないメッセージを慎まれたのかもしれませんし、メッセージを発することで生じる音声・映像スタッフの感染の危険性を考慮されたのかもしれません。

または、安倍総理から「メッセージはご遠慮ください」と言われたのかもしれませんし、「やすやすと玉音など出すものではない」と天皇陛下がご判断されたのかもしれません。

どのような事情なのかは分かりませんが、しかし、逆説的に考えれば、むしろ「国難に際して天皇陛下のお声が聞こえない」というそのことこそが、お言葉が出る・出ない、に関わらず、天皇や皇室の存在は、ただいてくださるだけで、宮中で国民の安寧を祈ってくださるだけでありがたい存在なのだということを国民に気づかせてくれる大切なことなのかもしれませんね。

今日も人知れず、国民一人一人を慮ってくださる天皇陛下に感謝し、筆をおきたいと思います。